シャールスタイン・田中
目を覚ますと運転席の兄が顔をこわばらせている。それもその筈、いつの間にか辺り一面雪景色で、当然のようにノーマルタイヤのこの車では真直ぐ走るのがやっとなのだ。苦労してサービスエリアへと入りつつあるのだった。
サービスエリア内もかなり雪が積もっており、うまく車が停まらない。案の定少し停まり損なって積み上げた雪の山に前をぶつけてしまった。ほとんど停まる直前だったから良かったものの、なんとも間の悪いやつがいたもので、車と雪山の間に挟まれてしまったのは10歳くらいの少年だった。「あぁすいませぇん」と全く誠意のない口調で兄は謝り、少年も特に気にとめるふうでもなくその場を離れた。
空を見ると月が二つある。どうしたことだろう、と思っていると兄があれは人工衛星だと言った。確かに先ほどまでは光っていて良く分らなかったが、パラボラアンテナのようなものを備えた巨大な人工衛星なのだった。後ろから追いかけてくる衛星が速度を上げ、このままではぶつかるだろうと思われた。周りにいた誰かが廃棄処分にするつもりなのだろう、というようなことを言った。そのときちょうど今日がその人工衛星の使用期限にあたっていることを思い出した。何日か前の新聞で読んだのだ。
前を行く衛星(今日廃棄処分になるのだ)に向けて後ろの衛星からミサイルのようなものが放たれた。それを受けた衛星は灰色の煙を上げ、爆発したようだった。その一部が大気圏内に入り、我々のいるこのサービスエリアからすぐ1kmほど先へ落ちていった。送電線が火花を散らして切れている。空では後ろを行く衛星が爆発に巻き込まれないように避けて進んでいる。兄はその光景を映像におさめようとデジタルカメラを取り出していたが、電池を入れるのに手間取り「あかん、こら間に合わんわ」といいつつ、それを肉眼ですら捕らえることができなかったのだった。
トイレに行く。便器に電飾とスピーカーがついており、用をたしているとそれに合わせて(センサーのようなものがついているのだろう)軽快な音楽が流れ、色とりどりの光が明滅する。こんな余計なものをつける金があるのならもっと清掃員の給料を上げるべきだと思った。とにかく汚いのだ。