Fragment 50 -村の図書館-

シャールスタイン・田中

 都会で教師をしていた男は定年を迎え郷里の村へと戻ってきた。まだまだ体も元気だったし、毎日何もせず過ごすよりはと、自宅を改築して金物屋を始めた。
 その金物屋はちょっと変わっていた。品物の種類が少ないのはまだいいにしても、それらを陳列する棚には車輪が付いていて、すべて壁に沿って置かれ、壁にある窪み-ちょうど棚と同じ大きさの-に半分の奥行きまではめ込んであった。
 実は壁にはめ込んである側には本が入っていた。つまり、本棚だったのである。男はなかなかのインテリだったので沢山の本を持っていた。男は昼間は金物屋の陳列棚であるそれを夜になると引っぱりだし、反対向きにした。すると金物屋の店鋪は男の書斎になるという案配なのだった。
 10数年が経ち、男は年老いて死んだ。男には身寄りがなかったので、その遺言によって蔵書は建物ごと村に寄贈された。
 そんな訳で、村の図書館には男の名前を冠した別館があり、今でも本の後ろには糸ノコの刃だとか木ネジだとかそんなものがひっそりと置かれている。


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