Fragment 45 -縁側にて-

シャールスタイン・田中

 種なしブドウをすすりながら畑のおじさんは梅の枝振りを眺めていた。「このあいだ農協の人たちと山梨に行ったんだけんども、この種なしブドウってのはどうも体に悪りいらしいな。お土産に買おうとしたら、これは何回も薬に漬けて作るからよしなさいってよ、別の種のあるブドウを買わされた」それはただもっと高いブドウを買わせようというだけの事だったかも知れないと私は思ったが、黙っていた。「でもオレはこっちの方が好きだ」そう言っておじさんは次の房に手を伸ばした。
 「こうやってね、刈った後にしばらく眺めてみるんだ。するとうまい具合にいってるかどうか、よく分かるんだ」私もおじさんの隣に座って梅を眺めてみたが、少し切りすぎているように感じた。そのことを言うと「いや、これから枝が伸びるからしばらくすると丁度よくなる。梅切らぬ馬鹿、って言うだろ」
 「煙草のむ職人はダメだ。お茶を飲んだ後、何時間でもふかしてやがる。怠けてばっかりで全然仕事が進まねぇんだ。オレなんかは煙草やらないから小一時間で切りつけて仕事に戻れる」と言っておじさんはサイダーを一口飲み、その後2時間あまりに渡って山梨のブドウ農家や房総の竹の子掘りの話を続けた。


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