Fragment 1-交通事故の光景(1)-

シャールスタイン・田中

 土曜の夜だったんで高速は混んでた。しばらく時速30kmくらいの低速運転をした後、だんだん混雑は緩んできてなんとか流れるようになってきた。千葉県に入る少し手前ではもうかなりスピードも出ていて、時速140kmくらいにはなっていたんだと思う。
 だけど出口が詰まってた。出口車線に入ってすぐ車は止まってしまった。ちょっとうんざりしながら前が動くのを待っていると、後ろから一台の車がこちらに近づいてくるのが見えた。ルームミラー越しに眺めているとその車はどうにも安全に-つまりオレの車にぶつからずにってことだが、止まるにはちと減速するのが遅れているようだった。
 で、見るみる近づいてくると案の定ぶつかっちまったんだ。その時の音といったら本当にいやあな感じだったな。うまく言えないけど「ガツン」「ゴチン」「グシャッ」「ガチャン」「バリッ」っていうような音が一ぺんに聞えたような感じさ。

 その車は時速200マイルぐらいでオレの車にぶつかったんで、そのショックでナビゲータ・シートに坐ってたキャサリンはウインド・シールド(日本じゃフロント・グラスっていうらしいけど)を突き破って時速100マイル程で飛んでっちまった。そしてたまたま運悪く通りかかったジャンボ・ジェット機のエンジンに巻き込まれて粉々になり、直径3.5ミクロンくらいの粒子になっちまったんだ。
 オレの方はというと、非常用脱出装置が作動してシートごと空中に垂直に飛び上がったのはよかったが、うまくパラシュートが開かずにハイウエイの下の地面に叩き付けられた。少なくとも高さが30フィート位はあったからたまらない。全身の骨という骨が砕け散ってすっかりオレは軟体人間になっちまったんだ。
 でもそのまま当て逃げされるのも癪だったから、オレは持ち前のジャンプ力を活かしてハイウエイ上の事故現場に跳び戻った。そしてゆっくりとそいつの方に歩いてゆき、全く落ち着き払ってこう言った「警察を呼びますか」。

 そいつは30歳前後の若い男だった。事故を起こしてしまったのですっかり気が動転している様子だ。「ええ、お願いします」そいつは青ざめた顔でいった。「でもとりあえず車動かしましょう」何のことはない、オレも結構慌てていたんだな。高速道路の出口に車が2台も停まってたらそりゃあ邪魔に決まっている。見るとオレとそいつの車を避けようとして後ろから来た車の列がそこで大きく膨らんでいる。
 オレとそいつ(頼まれたって「オレたち」なんて言うもんか)は車を脇に寄せた。幸い2台とも動くのには支障はないようだ。車を降り、非常用電話を探す。それはすぐ目の前にあった。何とも都合のよい話だ。まるでオレが事故に遭うのを待ち構えていたかのようだ。
 湿った潮の匂いが頬にまとわりつく。「そういうつもりだったのか。」あまり意味のない独り言を呟きながら電話の絵の描いてある緑色の箱に向かう。風向きが変わったようだ。(つづく)


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