Miles Davis


Jun.15,1999

 暦の上では夏だとはいえ、実際にはまだまだ春真っ盛りである(かなり無理があるな)。春といえばマイルスである。誰が決めたのかは知らんが(オレだ)。
 と、気軽に始めてみたがマイルスのレコードは死ぬほどある。全部いっぺんに紹介するワケにはいかない。で、とりあえずマイルスを聴きはじめようという人におすすめの数枚を紹介する。
 まずは『Cookin'』から。マイルス(trumpet)の他ジョン・コルトレーン(tenor sax)、レッド・ガーランド(piano)、ポール・チェンバース(bass)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(drums)というメンバーだ。この『Cookin'』は有名な「マラソンセッション」の4枚の中の1つ。「マラソンセッション」というのはプレスティッジ(というレーベル)との契約を消化するために2日間で4枚のアルバム(『Workin'』『Steamin'』『Relaxin'』『Cookin'』)を吹き込んだのでそう呼ばれている。で、この4枚の中ではこれが一番まとまっている。オープニングの「My Funny Valentine」はガーランドのイントロが美しい。
 このメンバーは初期マイルスの黄金期を作ったバンドだ。録音年が少し前後するが『'Round About Midnight』もぜひ聴いておきたい名作だ。上記のマラソンセッションが悪くいえばやっつけ仕事的で雑な印象を受けるのに対し、こちらはかなりじっくりと隅々まで作り込んである。タイトル曲のアレンジをあのギル・エバンスが手掛けたというのは有名な話である。この曲の代表的名演の筆頭に挙げられる。他にも後々までマイルスバンドの愛奏曲となる「All Of You」「Bye Bye Blackbird」やパーカー時代の名曲「Ah-Leu-Cha」、発掘的名曲「Dear Old Stockholm」など渋めの選曲が光る。
 さて、次に外せないのは『Kind of Blue』。これを聴かずしてマイルスは、いやジャズは語れない。モードどうこうなんてことは忘れてとにかく聴いて「いいなぁ」と浸ってみよう。と、書いてみたものの、実はオレ自身はこれがあまり好きでない。確かに時代の先頭にあった作品だし、その重要性もわかる。ただね、演奏があまりよくないんだな。3管のハーモニーが欲しかったのは分るんだけど、キャノンボール・アダレイは余分じゃないかい?曲の構成もけっこうだらだらとソロ回したりしてるし。今となっては全体に素人臭いヘタさ加減が鼻についてしまう不幸なアルバム。
 モード時代に入ったマイルスだが、なんといってもハービー・ハンコック(piano)、ロン・カーター(bass)、トニー・ウィリアムス(drums)のリズムセクションで第2の黄金期を迎える。後からウェイン・ショーター(tenor sax)が入ってきて最高潮に達するのだが、まずはショーター加入前の『My Funny Valentine』『Four and More』を聴こう。
 中でもガーランド〜チェンバース〜ジョーンズのリズム隊での録音がある「My Funny Valentine」「All Of You」の再演を聴き比べてほしい。このハービー〜ロン〜トニーのリズム隊によってマイルスは何を得たのか、ハッキリと分かるだろう。
 この2枚はライブ版ということもあり熱気あふれる演奏だ。とにかく理屈抜きでこの熱気に浸るだけでも十分楽しめる。
 さて、ショーター加入後の最高傑作といえば『Neffertiti』。伝統的な4ビートのジャズを極限にまで追求した演奏だ。このタイトル曲、「Neffertiti」を評してよく「ジャズの命ともいえる即興演奏を全く介さずして作られた」なんて事を言う人がいるんだけど、あんたらどこを聴いてるの?即興演奏がフロント(管楽器など)のためにだけのものと思っているのか?よく聴けよ、ずっとメロディーを繰り返し吹いてるマイルスとショーターの後ろでハービーが、ロンが、トニーが自由に「即興」演奏しているのを。これを即興と言わずして何を即興と言わんかや。ま、とにかく、このアルバムはどの曲もとてもエキサイティングでカッコいいんである。
 伝統的なジャズの可能性を追求し尽くしたかに見えるマイルスはこの『Nefertiti』以降、次第にロック色を強めてゆき、二度と「こちら側」には戻ってこない。この先のマイルスについてはかなり好みが激しく分かれる。「こんなのもうジャズじゃない!」といって拒絶反応を示す人、「何かこっちの方がオレは好きだな」という人、さらには「これこそマイルスだ」という人まで。まぁ、これはまた別の機会に取り上げ直そう。


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