忍野へ。


Apr.15

 世の中で最も春を待ち焦がれるのは釣り人だろう。今年もいつものように春がやってきた。まだ5月ぐらいまで待たなければならないところもあるが、この辺の渓流はたいてい解禁になっている。
 オレがよく行く川の一つに忍野桂川がある。まぁよく行くといっても年に1回程度なのだが、何となく行ってみたくなるのだ。御存じの方も多いだろうが、ここはそんなに釣れる川ではなく、むしろ釣れない部類に入る。人も多くてその点でかなり不快な思いをすることもしばしばだが、それでもやっぱり行ってしまう。何だかんだ言ってもこの川は他の川にない独特の魅力がある。
 というのはここはちっとも渓流らしくないのである。まわりも開けてるし、川の勾配も殆どない。ウェイダーをはいて川の中に立ち込む必要もないし、のんびり岸辺に座って釣りをすることも可能だ。最近この川でウェイダーをはいて立ち込んでいるヤツらが増えてきたが、そいつらに言いたい。川の中に入りたいなら他所へ行け。ここはそういうとこじゃないのだ。
 それはさておき、いろいろやってみた結果、オレにはどうも渓流らしい渓流は向いていないようだということに気付いた。釣り方がどうこうでなく、オレ自身があまり山奥の川に入って行くのが好きではないのだ。釣り方で言えば、オレのような雑な釣り方ではどこか人里離れた山奥の渓流に棲む純真なイワナかなんかじゃなければろくに釣れないことぐらい分かっている。確かにそういうところ(最近どんどん少なくなってきたが)に行けば魚もたくさん釣れるし、それなりに楽しい。
 しかしどうもしっくりこないのだ。オレは20数年間も関東平野という平らな場所に住み続けている。しかもその中でも最も標高の低い千葉県だ。なにしろ千葉県は最も高いところでも408mしかなく、地球が温暖化して海面が上昇したらまっ先になくなってしまうと言われている(かどうかは知らないが)。そんなワケでどうも山奥なんかに行ってしまうと落ち着かない。日ざしは弱いし空気も薄い(そこまではないだろうけど)。もし来る時に通ってきた道路が崩れたらこの山奥に閉じ込められるのではないか、と考えるとおちおち魚など釣っている気分ではない。
 その点忍野は安全だ。ひたすら真っ平らだし、実は富士山麓なのだからかなり標高は高いのだけれど、開けているのでそんなことは忘れてしまう。川の両側には普通の民家が立ち並び、そこで飼っている犬に吠えられたりもする。くどいようだがウェイダーをはいて立ち込む必要は全くないし、ちょっと頑張ればサンダル履きで釣りができる。
 ただし釣り自体はかなり難しい。魚からこちらは丸見えだし、釣り人も多いので魚も賢くなっている。最近ではめっきり少なくなったが、いたる所に水草がびっしり生えていて魚はその中に入り込んだきりなかなか出てこない。水性昆虫が豊富なので一体そのうちのどれを魚が喰ってるのか見極めるのも慣れが要る。
 そんなことで丸1日釣りをしていてさっぱり釣れないこともある。でもそれでいいのだ。魚が餌をとっているのをえんえんと眺めているだけでもいい。水草を採集するのも楽しい。晴れていれば川岸に寝転がって日なたぼっこもいい。ここでは魚を針に掛ける以外に色んなアソビ方がある。
 今年もそろそろ、忍野へ。


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