房総のオイカワ釣り


第1話/Beginning

Aug.21

 まず、千葉県でのオイカワ釣りの話題からだ。なぜオイカワなのかというとだな、うちの講座の実習(漁業関係論実習)で養老川、夷隅川、小櫃川のオイカワを採集するというのがあって、それを手伝いに行ったのだ。去年からこのオイカワの調査は始めたんだが、2年目になると結構手馴れたもんで首尾良く釣りまくったという感じだ。
 釣ったのは7/20〜7/23の4日間。まず20日は宿泊先である千葉大の小湊実習場に昼過ぎに到着。思ったより道もすいてて家から3時間程だった。その日は時間もそうないし、余り寝てなかったのでまあいいだろうてな感じでぐったりしているとM口先生から「時間あるんだから行ってこい」との有り難いお言葉。
 そんなわけで実習場からそう遠くない夷隅川の上流で釣る事に。魚はまあいるようだが、餌を用意してなくてそれを探すのに時間をくってしまう。結局その辺にいるアリを使った。小さいのと、成熟オスを1尾ずつ釣った。まあ、1時間ちょっとでの成果としてはこんなもの。
 21日は夷隅川を攻める。いろいろ場所を開拓しても良かったのだが、面倒なので去年も実績のあった所で釣る事にする。まずは中流域のカニ取り橋から。ここはわりと川幅もあり、瀬と淵が交互にあらわれるなかなかいい感じの場所だ。よく地元の人が投網を打っているのを見かける。アユ、オイカワの他ウナギなんかもいるみたいだ。(つづく)


第2話

Aug.31

 中流域のカニ取り橋に入ったオレ達だったが、はじめのうちはどういう訳かウグイばっかり釣ってしまう。狙いを誤っているのだろう。それに釣り方自体があまりに雑だ。で、今度は丁寧に岩裏の流れの弱くなってるとこなんかを流していくとぽつりぽつりとオイカワが釣れ出した。釣れてくるのはほとんどがメス。この調査では成熟したオスを釣らなくてはいけないのだ。昼過ぎにとりあえず移動することに。一緒に釣っていた(と言うより実際に実習を行なっている)学部3年生が結構成熟オスを釣ったので一安心だ。
 次に行ったところはもっと上流の松野という辺り。アユ(だと思う)がたくさん群れててオイカワは隅に追いやられていた。全然釣れないのでちょっと移動して勝浦温泉のところに行く。この辺になると底も砂の堆積が多くなってくる。
 それらしい場所に流すと結構な確率で釣れる。夕暮れまでの2時間程で10尾近く釣った。しかし、どういうわけかオレが釣るとメスばかり釣れてくる。しかも結構でっぷりと成熟したグラマーなヤツだ。
 とにかくその日は実習をしている学生とあわせてそこそこの数を釣ったので切り上げることにした。あまり暗くなると、かなりの急勾配で海に向かって下っていく帰りの道が大変なのだ。
 そして明日は養老川を攻める。ただ天気が心配だ。(つづく)


第3話/Conclusion

Sep.5

 7月22日。どうやら今日は雨のようだ。実習場の裏でミミズをとる。ちょっと探すだけで活きのいいヤツがすぐに見つかる。雨具をしっかりと準備して出発だ。
 去年も実績のあった養老渓谷駅の裏の辺りから始める。ここは川幅もあり、なかなかの渓相だ。すでに雨は降り始めている。今のところ川はそれほど濁りも入ってなく、これならばかえって雨が有利に働くだろう。
 その予想は当ったようだ。いい場所に流すと必ずといってよい程釣れる。しかし何だか気がつくと釣れているといった感じで、ほとんど向うアワセだ。これでは釣り歴15年の名に傷がつく。で、意識してアワセるようにすると急に釣れなくなった。そして何もせずにぼーっと流しているとまた掛かってくる。
 だいたい、物事がうまく行く時というのはそんなもんで、何もしなくてもうまく行くのだ。それを無理に意識して操作しようとすると逆にうまく行かなくなる。「人生向うアワセ」だな。ほらまた釣れた。
 なんて感じでぼんやり考えながら釣っていると、気がつくと魚は全部で18尾も釣れていて、あたりはすごい土砂降りになっていた。それでも川は「笹濁り」の状態で、いくらでも釣れるという感じだ。でも同じ場所でそうたくさん釣っても仕方ないので場所を変えることにした。
 次に行ったのはもっと上流の粟又の滝の近く。雨は相変わらず降ってる。渓相はけっこういい感じだが、どちらかというとヤマメやイワナがいてもおかしくない雰囲気だ。もちろん千葉県の川にいるはずはないが。
 雨のせいか、それともともとなのか分らないのだが、川幅は狭いながらも流れは強く、水温もだいぶ低いみたいだ。1尾だけオイカワが釣れるが、あとはウグイが嫌になるほど釣れてくる。川底はだいぶコケでぬるぬるしていて派手に転んでしまったりする。転ぶ時に竿を折らないようにと、とっさに放り投げていたのには我ながら感心した。さすがだな。伊達に15年も釣りやってないよ。
 結局その後雨で全身ずぶ濡れになってもオイカワは1尾だけ。もう切り上げようと離れたところで釣っている学生たちのところへ向かう途中、岸にのぼった時にその悲劇は起きた。
 彼らがいる沢の流れ込みのところは少し深くなっていて、川の中を歩いていくことができない。それで岸の方から行く(これを業界では"高巻き"という)。この辺の地層は割ともろい粘土のようなもので構成されていて、その時歩いていた川面から2mくらいの川岸も木や草で覆われているとはいえ、非常に崩れやすかった。あ、ここは乗ったら崩れそうだな、と分っていてもついそこに足を乗せたくなるのが人情というもので(どんな人情だ)、案の定、足下ががらがらと崩れた。
 しかし、こういう状況で下手に踏み止まろうとすると、かえって色んなところをぶつけたり、擦りむいたり、最悪の場合には頭から落ちたりすることになるものだ。そこでオレはとっさに地面を蹴って潔く川に飛び込んだ。いやぁ、ほんとに見事な飛び込みっぷりでしたな。雨と転んだのとでだいぶ濡れていたとはいえ、これですっかりパンツまでずぶ濡れになってしまった。まあ、幸いなことに水深は1m位しかなかったので溺れることはなかった。
 そんな訳でその日の釣りはそれまで。宿に戻ってすぐ風呂に入った。
 最終日(7/23)は小櫃川でオイカワをとる予定だったのだが、他に用事があってあまり時間がなかったのと、前日までの雨でだいぶ川も濁っていたこともあって結局1尾も釣れなかった。上流の方で少し時間をとって釣りをしたのだが、ここはウグイばかりでオイカワの気配は全くなかった。前日の養老川の上流もそうだったが、流れが急すぎるのと、水温が低いためだろう。ここにオイカワはいないのだ。(余談だがこの辺にはヒルがうじゃうじゃいた)
 そんなこんなで今年の房総オイカワ釣りの旅は終わった。じゃない、これは実習だったんだ。次の日から大学でホルマリン漬けになった4日間の釣果をいじくりまわすという苦役が待っていた。おかげでその後1カ月は両手の指紋がなくなっていた。(了)

蛇足:宿泊した実習場は千葉大のもので、オレらは間借の身だったワケだが、食堂のオーブントースターを椅子の上に置いて使っていたら椅子が黒焦げになってた。こりゃもう出入り禁止だな・・・


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